星たび星たび研究室

宇宙観の変遷と宇宙論の進歩

ハッブルから量子重力理論まで

宇宙観の夜明け

人が夜空を見上げるようになったのは、いつの世からであろうか。 幾千年の昔から、人々は星の瞬きに、それぞれの想像を託してきた。 地球こそが宇宙の中心にあり、星々はあたかも神の定めた理に従って、その周囲を巡るのだと信じて疑わない 天動説が信じられていた時代が長く続いた。 まことに人間本位な宇宙観であった。 しかし、科学という名の新たな刀が、この不動の常識を切り裂いてゆくこととなる。

ハッブルの発見

明治の世が遠くなった頃、アメリカに一人の男がいた。エドウィン・ハッブルという。 彼はウィルソン山天文台にこもり、 ただひたすらに、遠い銀河から届くわずかな光を追い求める日々であった。 その探求の果てに、彼は宇宙の常識を根底から揺るがす、ある驚くべき事実を掴み取る。

赤方偏移- Wikipedelia

銀河の光が、遠いものほど赤くずれて見えることに気づいたのである。 それは、あたかも救急車が遠ざかるにつれ、そのサイレンの音が低くなるように、銀河が我々から遠ざかっていることを物語っていた。 しかも、その速度は、遠ければ遠いほど速くなるという、見事なまでに整った法則性があった。 ハッブルの観測は、あたかもパン生地の中のレーズンが、生地の膨張とともに互いに遠ざかっていく様子に似ていた。 静謐なるものと思われていた宇宙が、実は今この瞬間にも、活発に膨張し続けているという、壮大な絵姿を描き出したのである。

宇宙の加速膨張

しかし、この物語には、さらなる意外な展開が待ち受けていた。 ハッブルの発見から約70年後、二つの独立した観測チームが、遠方の超新星を観測する中で、 別の驚くべき事実を掴んだのだ。 宇宙の膨張速度が、過去よりも加速しているというのだ。

宇宙には、万物を引きつけようとする重力という力が働いている。 それゆえ、宇宙の膨張は時間とともに減速していくのが、誰もが信じて疑わない定説であった。 ところが、観測結果は、その定説に真っ向から反するものであった。 それは、重力に抗い、宇宙全体を押し広げようとする「何か」の存在を強く示唆するものであった。 その正体は未だ不明だが、物理学者たちはこれをダークエネルギー(暗黒エネルギー)と名付け、 宇宙の最大の謎の一つとして、その解明に挑んでいる。

この発見は、あたかも打球が徐々に速度を落とすだろうと誰もが思っていたボールが、 実は見えない力に引かれ、加速し続けていたというような、想像だにしない物語であった。

ビッグバンという名の物語

このハッブルの発見、そしてその後の加速膨張という新たな物語に、確固たる生命を与えた男がいる。 ベルギーの司祭であり、物理学者でもあったジョルジュ・ルメートルという。 彼は、ハッブルの描く膨張する宇宙を、時間の流れで逆行させれば、すべての星々が遥か昔の一点 「特異点」に集まるはずだと ハッブル-ルメートルの法則を考えた。 その一点から、宇宙全体が爆発的な勢いで始まったのではないか。 彼はこれを「宇宙の卵」と表現し、後にビッグバンと呼ばれることになる 壮大な宇宙創生論の種を蒔いた。

しかし、ビッグバン理論にもいくつかの説明できない謎があった。 たとえば、宇宙の広大なスケールで見ると、どこを見てもほぼ一様な温度をしているのはなぜか。 また、なぜ宇宙はこれほどまでに平坦な幾何学を持っているのか。 これらの謎は、長らく物理学者たちの頭を悩ませてきた。

宇宙のインフレーション

宇宙のインフレーション - Wikipedelia

この謎に、一つの大胆な解答を与えたのが、宇宙のインフレーションという考えである。 これは、宇宙の始まり、ビッグバンのごく初期、わずか10-36秒から10-32秒という、 想像を絶するほど短い時間の中に、宇宙が光速をはるかに超える勢いで急激に膨張したとする理論である。 この爆発的な膨張は、まるで風船を一気に膨らませるように、宇宙を極めて広大なスケールまで一瞬にして引き伸ばした。

このインフレーションが、先述の謎を鮮やかに説明する。 たとえば、宇宙の初期に小さな領域に閉じ込められていた物質やエネルギーが、一瞬にして広大なスケールに引き伸ばされたため、 どこを見ても一様な温度に見えるようになった、というのである。 この理論は、ビッグバンという物語の序章に、さらなる深みと説得力を与えることとなった。

ビッグバン理論が示す進化の物語

宇宙マイクロ波背景放射 - Wikipedelia

インフレーションという嵐のような幕開けの後に、 ビッグバン理論が描く物語が本格的に始まる。
約138億年前、宇宙がとてつもなく高温で、密度の高い特異点から始まったという物語である。 その物語の冒頭、宇宙がまだ若かった頃は、陽子中性子が生まれ、 やがて陽子と中性子が核融合してヘリウムなどの軽い原子核が形成された。 そして、およそ38万年後、宇宙の温度が下がりきった時、 原子核は電子を捕まえ、水素原子やヘリウム原子といった安定した中性原子となった。 この瞬間、それまでを遮っていた粒子が消え、光が自由に宇宙空間を旅することができるようになった。 この出来事を、人々は宇宙の晴れ上がりと呼び、 その時の光は、今も宇宙マイクロ波背景放射(CMB)として、 私たちの観測の前に姿を現すのである。

未知なる宇宙の隘路

しかし、このビッグバンという壮大な物語にも、いまだ語られていない部分がある。 ビッグバン理論は、宇宙の始まりの状態から、いかにして現在の姿に至ったかを記述するものであって、その始まり、つまり特異点の「前」に何があったのかは、誰も知らない。 まるで、歴史の始まりに、書き記されていない空白があるかのようだ。

量子重力理論 - Wikipedelia

現代の物理学者たちは、この空白を埋めるべく、新たな隘路に挑んでいる。 それが、量子重力理論という考えである。 これは、巨大な宇宙の重力を扱う一般相対性理論と、 ミクロな世界の粒子を扱う量子論という、 本来相容れない二つの理論を統合しようとする壮大な試みである。 ブラックホールの中心や、 ビッグバンの瞬間といった、極限の場では、この二つの理論が矛盾なく語り合えるような、新たな言葉が必要とされるのだ。

理論という名の道標

その道を探るため、幾つかの「道標」が立てられている。 一つは、宇宙の最小単位を「点」ではなく、震える「ひも(弦)」だと考える超弦理論。 このひもの振動の仕方が、あらゆる素粒子の性質を決めるとされ、重力という難物を、自然な形で説明することができる。 もう一つは、時空そのものが、極小の「ループ状の網」でできていると考えるループ量子重力理論である。 時空は連続したものではなく、最小単位を持つと仮定することで、重力を量子化しようと試みている。

これらの理論は、まだ実験的に証明されたわけではない。しかし、この探求こそが、宇宙の真の姿を解き明かし、人類がどこから来て、どこへ向かうのかという、根源的な問いに答える鍵となるのであろう。

(生成AI&樋口元康)